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大阪地方裁判所堺支部 昭和58年(ワ)219号 判決

原告

木村久男

被告

市ノ木山卓也

ほか一名

主文

一  被告市ノ木山卓也は、原告に対し、金二〇八万八、一三九円及びうち金一八八万八、一三九円に対する昭和五六年九月六日から、うち金二〇万円に対する昭和五八年五月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告岸田春木農業協同組合は、原告に対し、被告市ノ木山卓也に対する本判決が確定したときは、金二〇八万八、一三九円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自一、二九七万七、三七六円及びうち一、一二七万七、三七六円に対する昭和五六年九月六日から、うち一七〇万円に対する被告市ノ木山は昭和五八年五月一二日から、被告組合は昭和五九年一〇月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、次の交通事故により、傷害を被つた。

(1) 日時 昭和五六年九月六日午前五時三五分ころ

(2) 場所 堺市出島海岸通り四丁七番二九号先路上

(3) 加害者 普通乗用自動車(泉五六そ四五号)

運転者 被告市ノ木山

(4) 被害者 原告

(5) 態様 原告が自動車から降りて道路を歩行していたところ、対向して進行してきた加害車が衝突した。

2  責任原因

(一) 被告市ノ木山

被告市ノ木山は、加害車を運転中、前方に対する注視を怠つた過失により、本件事故を発生させたから、民法七〇九条により、原告の後記損害を賠償すべき義務がある。なお、本件事故現場は前方の見通しがよいのに、被告市ノ木山は、自動車運転者として基本的な注意義務である前方注視を怠り、前方にいる原告の存在を認識しながらその動静に注意を払うことなく漫然と進行して事故を発生せしめたのであるから、その過失内容は故意にも等しい重大な過失というべきである。

(二) 被告組合

被告組合は、昭和五六年一月三〇日、被告市ノ木山との間で加害車について、被共済者を被告市ノ木山とし、共済金八、〇〇〇万円とし、昭和五七年一月三〇日午後四時までを共済期間とする内容の自動車共済契約を締結した。

原告は被告市ノ木山に対し、前記のとおり本件事故による後記の損害賠償請求権を有するところ、同被告は無資力であるから、同被告の被告組合に対する共済金請求権を代位行使する。

3  傷害の内容・治療経過等

(一) 傷害の内容

左大腿骨骨折

(二) 治療経過

(1) 昭和五六年九月六日から昭和五七年三月三一日まで二〇七日間阪堺病院に入院

(2) 後遺症

左下肢一センチメートル短縮、左膝関節の機能障害

4  損害額

(一) 治療費 五七万四、六四〇円

(二) 入院雑費 二〇万七、〇〇〇円

原告は、本件事故による傷害のため、昭和五六年九月六日から昭和五七年三月三一日まで二〇七日間入院し、その間一日一、〇〇〇円の割合による入院に伴う費用を要した。

(三) 付添看護費 一九万六、〇〇〇円

原告は、前記入院中ギブス固定を必要としたため、昭和五六年九月六日から同年一〇月三一日までの五六日間原告の家族が付添看護にあたり、少なくとも一日三、五〇〇円の割合による右金額の付添看護費用相当損害を被つた。

(四) 文書料 七〇〇円

(五) 休業損害 一一六万九、八一五円

原告は、本件事故当時、堺市内所在の三友溶接に勤務し、事故直前七八日間に合計四四万〇、八〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による傷害のため、前記二〇七日間の入院期間中休業を余儀なくされ、その間別紙計算書(Ⅰ)記載のとおり、一一六万九、八一五円の収入を失つた。

(六) 後遺傷害による逸失利息 八七六万九、二二一円

原告は、前記後遺障害のため、その労働能力を少なくとも一二パーセント喪失するに至つたが、それは症状固定した昭和五七年一〇月一九日から六七歳までの四六年間継続し、その間右労働能力喪失率に応じた減収を招くものと考えられる。

ところで、昭和五六年度の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の平均賃金は年額三一〇万五、二〇〇円であるから、原告の右逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、別紙計算書(Ⅱ)記載のとおり、八七六万九、二二一円となる。

(七) 慰藉料 二九〇万〇、〇〇〇円

(1) 入院に伴う慰藉料 一五〇万円

(2) 後遺症に対する慰藉料 一四〇万円

(八) 弁護士費用 一七〇万〇、〇〇〇円

原告は、任意の支払を受けられないので、本訴の提起、遂行を原告訴訟代理人に委任し、大阪弁会の報酬規定による本訴の着手金は八九万五、〇〇〇円で、報酬が右と同額であるから少なくとも一七〇万円の弁護士費用相当の損害を被つたことになる。

(九) 損害の填補 二五四万〇、〇〇〇円

原告は、本件事故による損害の賠償として、被告市ノ木山から二六万円、自賠責保険から二二八万円合計二五四万円の支払を受けた。

5  結論

よつて、原告は被告らに対し、第一記載のとおりの判決(遅延損害金は、弁護士費用を除く部分については事故当日から、弁護士費用については訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定年五分の割合による)を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(被告市ノ木山)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2(一)の事実は争う。

3 請求原因3の事実中、(一)の事実は認める。なお、原告に後遺障害が残つたことは認めるが、これは原告が入院中無断外泊した退院処置を受け、適切な治療を受けなかつたことによるものである。

4 請求原因4は争う。

(被告組合)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の(二)の事実中、被告組合と被告市ノ木山との間に原告主張の共済契約が存在することは認める。しかし、原告が被告市ノ木山に損害賠償請求権を有することは争い、その余の事実は不知。

3 請求原因3の事実は不知。

4 請求原因4の事実中、(九)は認めるが、その余の事実は不知。

三  被告らの主張

(被告市ノ木山)

本件事故の発生については、原告にも次のとおりの重大な過失があるから、損害額の算定にあたつては原告のこの過失を斟酌すべきである。即ち、

原告と行動を共にしていた訴外田中が何らの理由もなく加害車を破損したうえ、被告市ノ木山に対しても暴行を加えてきたので、同被告は、これを逃れるため加害車を発進したところ、車道上を加害車に向つて漫然と歩行してきた原告に衝突したものであり、原告にも重大な過失がある。

(被告組合)

1 被告市ノ木山の正当防衛

本件事故は、被告市ノ木山が訴外田中らからの暴行を逃れるために加害車を急発進させたことによつて発生したものである。そして、右田中の行為は理由もなくバツトで加害車のガラスをたたき割るという常軌を逸したものであり、同被告の右運転行為は、自己の権利を防衛するため已むを得ないものであつた。従つて、同被告の原告に対する加害行為は正当防衛として違法性が阻却され、同被告は原告に対し、損害賠償義務を負わない。

そうすると、右被告の責任を前提として発生する被告組合の共済金支払義務も発生しない。

2 被告市ノ木山の故意責任

被告市ノ木山は、原告との衝突を未必的にせよ容認していたものであり、本件事故は、同被告の故意により発生したものである。

そして、被告組合の被告市ノ木山との間の原告主張の共済契約の約款第一一条一項(ア)の規定によれば、被共済者の故意により発生した事故による損害については、被告組合は、共済金支払義務を負わないものである。

3 過失相殺

原告には追いつめられた被告市ノ木山が加害車を急発進するなどの所為に出ることは十分予想されたのであるから、加害車の動静には十分配慮すべきであつたのに、漫然と車道上を歩行していて衝突したのであるから、本件事故の発生には原告にも重大な過失があるというべきである。まして、原告は右被告に対する加害者グループの一員であつたのであるから、損害額の算定にあたつては相当の過失相殺がなされるべきである。

四  被告らの主張に対する答弁

1  正当防衛について

被告組合の正当防衛の主張は争う。

加害車に暴行をはたらいたのは訴外田中のみであり、原告は、被告市ノ木山に対して何ら加害行為をなしていない。また、同被告が加害車を発進した時点では、周囲には誰もいなかつたのであり、防衛行為の必要性は全くなかつた。

従つて、同被告の行為について正当防衛の成否を論ずる余地はない。

2  故意責任について

被告組合の本件事故は被告市ノ木山の故意により発生した旨の主張は否認する。

3  過失相殺について

被告らの過失相殺の主張は争う。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告市ノ木山

成立に争いのない甲第一号証の一、二、原告及び被告市ノ木山各本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、南北に通じる幅員二七・二メートルの国道二六号線上で、道路中央には分離帯が設置され、車道(片側二車線)の両側には歩道があつてガードレールによつて区別されており、路面はアスフアルト舗装がなされ、付近は直線であつて南北両方向とも前方の見通しはよい。最高速度は時速四〇キロメートルに規制されており、駐車禁止、歩行者横断禁止の場所である。

(二)  被告市ノ木山は、友人の訴外甘佐の運転する自己所有の加害車に同乗し(全員で四人)、時速約五〇ないし六〇キロメートルで北から南へ向けて進行して本件事故現場に差しかかつた際、先行する二台の乗用車のうちの一台が加害車の進路をさえぎるかたちで停車したため、加害車もやむなく車道左端付近に停車したところ、先行車両から降りてきた訴外田中が手に持つたバツトでもつてやにわに加害車の窓ガラスをたたき割る行為に出たため、同被告が下車したところ、右訴外人は同被告に向つてバツトを振りかざしてきたので、一たんはその場を逃れた。

そして、被告市ノ木山は、加害車でその場を逃れようと考えて加害車のところへ戻つたところ、先行車両はその場になく、訴外田中やその乗車者らも加害車の周辺にはいなかつたので、加害車の同乗者である同被告の友人らは一人もいなかつたけれども、加害車に乗つて発進した。なお、発進の際に、同被告は、前方車道左端付近に、約二五・八メートル(訴外田中)と約三四・二メートル(原告)の地点に人影を認めたが、その場を逃れることに注意を奪われて右人影の動静に十分注意することなく進行し、訴外田中に接触したうえ、対向して歩行してきた原告に加害車前部を衝突させた。なお、当時の車両の交通量は閑散であつた。

(三)  原告は、友人八人で二台の乗用車に四人ずつ分乗し、北から南へ向け進行して本件事故現場へ差しかかつたが、後続していた車両に乗つていた訴外田中が加害車の窓ガラスをバツトでたたき割るなどの行為に及んだ。その後、原告は同乗していた車両から降りて、車道左端から約一・八メートルの付近を加害車の方へ向け歩行していたところ、対向して進行してきた加害車と衝突した。

以上の事実が認められ、甲第一号証の二の記載、原告及び被告市ノ木山各本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、被告市ノ木山は、加害車を発進するに際して前方に人影を認めたのであるから、その動静を十分に注視して運転すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失により、本件事故を発生させたものと認めるのが相当である。従つて、同被告は、民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償すべき責任がある。

2  被告組合

被告組合と被告市ノ木山との間に原告主張の自動車共済契約が存することは、当事者間に争いがない。

そして、原告が被告市ノ木山に対し、損害賠償請求権を有することは前記1認定のとおりであり、同被告が本件事故による原告の後記損害を支払うことが困難であることは弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

従つて、被告組合は、被告市ノ木山に対する本判決が確定したときは、原告の本訴共済金請求に応じる義務がある(なお、弁論の全趣旨によれば、原告の被告組合に対する請求には右趣旨の将来の給付の請求も含まれているものと解するのが相当である)。

三  被告らの主張に対する判断

1  正当防衛について

被告市ノ木山本人尋問の結果によると、訴外田中がバツトでもつて加害車の窓ガラスをたたき割り、加害車から降車した同被告をバツトを持つて追い回したこと、同被告は、その場を逃れるため加害車を発進させたところ原告と衝突したことが認められるれども、本件事故が同被告の権利を防衛するために、已むを得ずしてなされたものであることを認めるに足る証拠はない。

従つて、被告組合の正当防衛の主張は理由がない。

2  故意責任について

被告市ノ木山本人尋問の結果によると、同被告が加害車を発進させた際に冷静さを相当に欠いていたことは認められるけれども、同被告が本件事故の発生を認識しながらこれを容認して加害車を運転したことは認めるに足る証拠はない。なお、被告組合は、被告市ノ木山が実況見分の段階で、加害車を発進する際に車道前方に原告を認めた旨指示説明していること(甲第一号証の二)をもつて、同被告に故意のあつた根拠となすが、甲第一号証の二によると、前方約三四・二メートルの地点に原告を認めたものであるから、この状況で原告を認めて発進したからといつてこれをもつて原告との衝突を認識し、あるいはこれを容認したものということはできない。

従つて、本件事故が被告市ノ木山の故意により発生したことを前提とする被告組合の共済金支払についての免責の主張は理由がない。

3  過失相殺について

本件事故発生の状況は前記二1認定のとおりである。

そして、右認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告にも幹線道路である国道で歩車道の区別があり歩行者は横断禁止の場所である車道上を歩行した過失があることが認められるところ、前記二1認定の本件道路の状況、原告及び被告市ノ木山の過失の態様及び前記二1認定の諸事情を総合すると、過失相殺として、原告の損害の一割を減額するのが相当であると認められる。

四  傷害の内容・治療経過等

被告組合との間では成立に争いがなく、被告市ノ木山との間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二、三号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、本件事故により、左大腿骨骨折の傷害を受け、昭和五六年九月六日から昭和五七年三月三日まで一七九日間阪堺病院に入院して治療を受けたが、同日から同月三一日まで自宅へ帰つて無断外泊したため同年三月三一日退院の処置がとられたこと(なお、医者の事前の承諾を得ることなく帰宅したのは経済的な理由と原告の入院中付添看護に当つていた妻が懐妊していることを配慮してのことであつた)、後遺症として、左下肢一センチメートル短縮の障害(自賠法施行令二条別表の障害等級一三級該当)及び右別表の障害等級に該当する程度ではないものの左膝関節の屈曲制限の障害が残つたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。なお、被告市ノ木山は原告の後遺障害は原告が適切な治療を受けなかつたことに起因する旨主張し、甲第二号証には右主張に沿うかのような記載があるが、原告本人尋問の結果に照らし考えると、右記載をもつて直ちに右主張を認めるには足らず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

五  損害額

1  治療費 五七万四、六四〇円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は、前記阪堺病院における治療費として、原告主張の五七万、四、六四〇円を要したことが認められる。

2  入院雑費 一七万九、〇〇〇円

原告が昭和五六年九月六日から昭和五七年三月三日まで一七九日間の入院に伴う雑費として、一日一、〇〇〇円の割合による合計一七万九、〇〇〇円を要したことは経験則上これを認めることができる。なお、原告は昭和五七年三月三一日までの入院雑費の請求をなすが、前記認定のとおり同月三日からは自宅へ帰つていたのであるから翌四日以降の入院雑費の請求は理由がない。

3  付添看護費 一九万六、〇〇〇円

前掲甲第二号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は、前記認定の入院期間中の昭和五六年九月六日から同年一〇月三一日まで五六日間付添看護を必要としたため、原告の妻が付添看護にあたつたことが認められるところ、経験則によれば、右付添看護により一日三、五〇〇円の割合による五六日分合計一九万六、〇〇〇円の付添看護費相当の損害を被つたことが認められる。

4  文書料 七〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による傷害のための診断書の交付を受けるなどのための費用として原告主張の七〇〇円程度は要したことが認められる。

5  休業損害 一一六万九、八一五円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証によると、原告は、本件事故当時二〇歳で、三友溶接に勤務し、事故直前七八日間に合計四四万〇、八〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による傷害のため、昭和五六年九月六日から昭和五七年三月三一日までの二〇七日間休業を余儀なくされ、その間原告主張の一一六万九、八一五円の収入を失つたことが認められる。

6  後遺障害による逸失利益

原告は、本件事故による傷害に基づく後遺障害のため、その労働能力を少なくとも一二パーセントを喪失し、それは症状固定した昭和五七年一〇月一九日から六七歳に達するまでの四六年間継続し、その間右労働能力喪失率に応じた減収を招く旨主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五七年一〇月ころから運送業あるいは土木建設業関係の仕事に就いたりしたのち、昭和五八年七月から運輪会社に自動車運転手として就職し一カ月二〇万円の給与を得ていること、本件事故による後遺障害のため、多少の苦痛ないし不便は感じるものの給与額自体は同僚と差がないことが認められるところ、右の事実に前記四認定の後遺障害の部位・程度、原告が従事している職務の内容、原告の年令等を合せ考えると、原告は、稼働によつてある程度の苦痛ないし不便を伴うとしても前記認定の後遺障害のためにその労働能力を継続的に喪失しそれに応じた減収を招くまでのことはないものと認めるのが相当である。そして、右稼働に伴う苦痛ないし不便の点は慰藉料額の算定にあたり斟酌することとする。

従つて、原告の後遺障害による逸失利益の主張は理由がない。

7  慰藉料 二八〇万〇、〇〇〇円

前記四認定の傷害の部位・程度、治療の経過・期間後遺障害の内容・程度、その他本件に現われた一切の事情(但し、原告の過失の点は除く)を合せ考えると、本件事故による原告の慰藉料は二八〇万円が相当であると認められる。

8  過失相殺

前記五1ないし5、7の原告の損害合計額は四九二万〇、一五五円となるところ、前記三3認定の過失割合を斟酌すると、被告市ノ木山において支払わなければならない損害額は右金額の九割にあたる四四二万八、一三九円となる。

9  損害の填補 二五四万〇、〇〇〇円

原告が本件事故による損害賠償として、自賠責保険から二二八万円、被告市ノ木山から二六万円合計二五四万円の支払を受けたことは原告の自認するところである。

よつて、原告の前記損害額四四二万八、一三九円から右填補分を差引くと、残損害額は一八八万八、一三九円となる。

10  弁護士費用 二〇万〇、〇〇〇円

原告が本訴の提起・追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告が被告市ノ木山に対し、本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうべき弁護士費用の額は二〇万円が相当であると認められる。

六  結論

以上により、原告に対し、被告市ノ木山は二〇八万八、一三九円及びうち弁護士費用を除く一八八万八、一三九円に対する事故当日の昭和五六年九月六日から、うち弁護士費用二〇万円に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明白な昭和五八年五月一二日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、被告組合は被告市ノ木山に対する本判決が確定したときは二〇八万八、一三九円及びこれに対する右確定の日の翌日から支払済まで右割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 新崎長政)

計算書

(Ⅰ) 原告主張の休業損害

440,800円÷78×207=1,169,815円

(Ⅱ) 原告主張の後遺障害による逸失利益

3,105,200円×0.12×23.5337=8,769,221円

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